二項係数の剰余 その2
前回の復習
前回は、連続整数の積がで割り切れることの証明の中で、次の定理を示したのでした。ただし、はをで割った余りを表します。
この定理は、連続整数の積の素因数について考える上での基礎になります。今回は、これを使って二項係数の素因数について調べようと思います。
二項係数の素因数の指数の計算方法
二項係数は ですので、これをで割り切れる回数は
となり、確かに定理1が使えそうです。とりあえず、一般に、とので割り切れる回数を比較する方法を考えてみましょう。
となるので、最後のシグマの中身に定理1が使えます。とをと比較すればいいわけです。式を書きやすくするために、カウンターを定義しましょう。
こうすると、
と、よりわかりやすくなりました。 さて、二項係数を考えていたので、実際はです。すると、より、
と、さらに簡潔になりました。
これ以上は綺麗にならないので、一般的な考察はここまでとして、具体例を使って遊んでみましょう。
応用例
(証明)より。のときは、よりである。したがって、定理2からはでちょうど1回割り切れる。[証明終]
(証明)より。よりなので、定理2からはでちょうど1回割り切れる。[証明終]
(証明)は明らか。のとき、はでないの倍数なので、である。とあわせて、であるから、定理2よりはで割り切れない。[証明終]
こんな風に二項係数の素因数について面白いことがたくさん導けます。やろうと思えばまだまだ作れそうですが、あんまりたくさん作ってもどうしようもないのでこの辺でやめておきましょう。
裏技
ところで、実はをを一つずつ増やしながらちまちま計算するのではなく、一気に計算する方法があります。それは次の定理を利用するものです。
(証明)
とする。での桁で繰り下がりが起きるのは、
であることと同等である。左辺はと、右辺はと等しいから、繰り下がりの回数と、が1になる回数は等しい。[証明終]
この裏技を使って、あの有名な東京大学2015年の入試問題を解いてみましょう!
(略解)を2進数で計算したとき少なくとも1回繰り下がるようなの最小値を求めればよい。より、求めるはである。
おまけ
最後に定理1を使えば解ける自作問題を載せておきます。
さて、なるほどなるほど、はで割り切れないのか...と、まさかこれで満足できないですよね。割り切れないなら、当然余りが知りたくなりますよね。ということで、次回は二項係数を素数で割った余りについて見てゆきます。もちろん、定理1や定理2は素因数のことしか考えていないので、余りが0かそうでないかしか判別することができません。したがって、他の方法が必要になります。それは次回のお楽しみに。ではまた。
二項係数の剰余 その1
この記事では、連続整数の積がで割り切れることの証明を通して、連続整数をその素因数で何回割れるかを調べます。
で表しましょう。すると、この定理は次のように言い換えられます。
ということで、が持つ素因数の次数を調べることにします。これには、ルジャンドルの定理という便利な定理がありまして、をで割り切れる回数は
であることがわかっています。と言っても、の中のの倍数の個数、の倍数の個数、...を足し合わせたと考えれば当たり前です。ですから、ので割り切れる回数は
となります。
さて、これをの関数と見て、任意の素数に対してのときにこの値が最小になることを示せばよいです。そこで、まずはシグマの中身について考えてみましょう。これは整数の中にあるの倍数の個数を表しています。これは次の図のように、周の長さがの円に長さnの糸を巻きつけてゆく様子と考えるとわかりやすいです。(図はがになっていますが同じことです。(すみません、直すのめんどくさいです泣))
このとき問題の個数は、円につけられた印を糸が何回通過しているかに対応していることになります。しかし考えてみると、糸の末端であるの位置を変えてみても、その数は2種類(場合によっては1種類)しかないことがわかります。つまり、の値は2つだけということです。具体的にはです。
では次に考えることは、がどんな条件を満たすときにどちらの値を取るのか、です。
この図を見ると、赤い部分の長さが青い部分の長さを超えるとに対応する糸の先端が印を跨ぐので回数としては大きい方の値をとります。逆に、赤い部分の長さが青い部分の長さ以下であれば小さい方の値をとります。赤い部分の長さとはをで割った余りのことであり、青い部分の長さとはをで割った余りのことであるので、今述べたことは次の定理にまとめられます。ただし、以降をで割った余りをと書きます。
ここまで来ればもう簡単ですね。当然なので、のときは常に上側、すなわち小さい方の値を取ることになり、で足し合わせた値は最小になります。よって
という不等式が任意の素数で成り立つことになり、定理1が無事示されました。
次回は、この定理2を使って二項係数が素数で何回割れるかを調べます。ではまた。